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サインも何もない瓶花の静物図。妙にこなれた絵具使い。
もともと納まっていた額縁も、戦前のもので傷んではいるけどラッカー仕上げのシンプルかつモダンなそれなりの額縁。庶民じゃ趣味の素人日曜画家という人もそういない時代。
瞬く間に仕上げられた筆致の様子から、それなりに目にとまる上手い人だと思う。
僕としては好ましく眺められる。
この絵についていえばそんな感じ。
それよりも、もっと気になるのはこの絵の基底材。
大きさは、ほぼ8号Pサイズの板。
この板はどうも何かの作業の下敷きに使っていたもののよう。
作品の裏を見ると、この板の上で鋭利な刃物で定規を使って何か紙でも切ったようなスーッと走る切り傷の痕跡が幾筋か見られる。
よくみると描画された画面の絵具のしたにも同じ痕跡がみられる。
ちゃんとした描画用の板やキャンバスが無かったのか、買えなかったのか。
即興に制作欲が抑えきれずに手近なものに描き上げたのか。
そもそもこの板は何に使っていたものなのか。
作品の裏には鉛筆書きの落書きがいっぱいある。幼い女児の仕業と思われる。
アルファベットや靴のようなものが描かれている。
そこに強い筆圧でこの板に写ったようにかすれたペン書きの痕が見られる。
大人の筆跡。同じ文章が二行並んで、はなれてもう一行。
記されている文章は『妻は病床に伏し子は飢えに泣く』とある。
なんじゃこりゃ。
この作者はどんな奴?
元は素封家で落日の憂き目をさまよう若き旦那さんなのか。
デカダンに毒された蒼白きインテリのナルシズムな芝居なのか。
文筆にも関わる人で、閃いた構想の一文を記したものか。(それにしてはベタな文章か)
病弱な妻が内職仕事の作業台にしていたものに描いたのか。
そーんなこと全くかかわりのないことなのか。
この落書きをした女の子は、髪型がおかっぱなのか。
謎は深まり、絵は不思議な精彩を放つ。

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